
論文の内容は下記から(英文)
Dermatology and Therapy
Volume 12, issue 10, October 2022,Pages: 2383 - 2395
・https://rdcu.be/cV8BU
論文内容(和訳)
Dermatology and Therapy
2022年10月 第10巻 p:2383 – 2395
<タイトル>
『頚の筋緊張の低下により心理的ストレスが改善し、中等度から重度のアトピーが軽快した20症例』
<要旨>
強いかゆみを認める中等度から重度の20例のアトピー患者さんに対して、骨格アライメント治療(PANセラピー)を行い、かゆみやストレスの自覚症状の変化と客観的所見(皮膚の状態・アレルギー検査、首の可動域)の評価を行った。ステロイド剤(外用薬・内服薬)や抗アレルギー薬は一切使わなかった。
15回のPANセラピーにより、首の筋緊張が改善するだけでなく、心理的ストレスが改善し、アトピーのかゆみや皮膚所見、アレルギー値が有意に改善した。
<まとめのポイント>
●頸部の筋緊張の改善により、心理的ストレスを改善し、中等度から重度のアトピーの症状を改善する可能性があります。
●アトピーを悪化させる心理的ストレスに対する具体的な対応方法として、頸部の緊張の緩和は、アトピーに対するステロイドや分子標的薬などによる皮膚科治療の効果を高めることができます。
<結果>
(1)かゆみ:V A S
15回のP A Nセラピーにより、かゆみが平均して約40%以上低下した。
(2)ストレス関連マーカー:皮膚Q O Lスコア(D L Q I)
15回のP A Nセラピーによりストレスに関連する生活の質Q O Lが改善した。
(3)ストレス関連マーカー:睡眠障害V A S
15回のP A Nセラピーによりストレスに関連する睡眠障害が大幅に改善した。
(4)アレルギーマーカー:T A R C
15回のP A Nセラピーにより、アレルギーマーカーでアトピー重症度と相関するTARCが大幅に低下した。
(5)頚椎可動域(ROM)
15回のP A Nセラピーにより頚椎の動き(可動域)が改善した。
(6)SF-36健康関連QOL(HRQOL: Health Related Quality of Life)表をグラフに改訂
PF:身体機能 RP:日常役割機能(身体) BP:体の痛み GH:全体的健康感
VT:活力 SF:社会生活機能 RE:日常役割機能(精神) MH:心の健康
15回のP A Nセラピーによって全ての項目が改善。アトピー症状だけでなく、肉体的、精神的なQ O Lが改善した。
(7)20症例の自覚症状・客観的所見の変化; pre:治療前、post:治療後
頚椎の可動性が向上し、心理的ストレスや睡眠障害、QOLスコアが改善し、アトピーのかゆみだけでなく、皮膚の炎症レベルと範囲(EASI・IGA)が改善し、血液検査でのアレルギー関連マーカー値(TARC・LDH・好酸球)も大幅に改善した。
<考察>
骨格アライメント治療(PANセラピー)により、かゆみが大幅に改善し、ストレス関連マーカー(HADSスコア、皮膚QOLスコア:DLQI、睡眠障害:V A Sとピッツバーグ指数)の改善、皮膚所見(EASIやIGA)の改善とともに、血液検査のアレルギー関連マーカー(TARCや好酸球、LDH)の結果が大幅に改善しています。アレルギーや炎症を抑える薬剤を使わずに、アトピー症状とアレルギーが大幅に改善していることが分かります。
IgEに関しては大幅には改善していませんが、本研究期間が3か月と短く、来院前にアトピー症状が悪化していたことを要因とした二次的な上昇を反映していると考えられます。
筋緊張の指標として、頚椎の可動性を評価し、20症例の平均で頸椎可動性が治療により有意に改善しています。またアトピー症状がある皮膚だけでなく、身体や精神的なQ O Lが大幅に改善し、生活の質が高まっています。
P A Nセラピーによって、アトピーのかゆみや皮膚症状が良くなる要因として、心理的なストレスの改善が関係していることがわかってきました。
心理的なストレスはアトピーの悪化の要因となり、ステロイド剤や分子標的薬でかゆみや皮膚の症状を抑えることができたとしても、過度なストレスがかかるとアトピー症状が悪化してしまう可能性が指摘されています。そのため、ストレスを緩和していくことが大切になりますが、首の筋緊張を改善することによって心理的なストレスを改善していくことができることことがわかり、薬物療法に頼らないアトピー治療の選択肢を増やし、再発や悪化を予防していく治療が可能になります。